憎まれ役 小野親子 そして「ころびキリシタン」

先日、「ころび芸者」という語について記しました。

実はこの「ころび」の次に来る語が宗教的単語となると「棄教」を意味します。改宗ということです。

三河にて家康時代の一時期、家臣団に「一向宗棄教」が沙汰されましたがほどなくしてうやむやになったという経緯はありました。

 

秀吉が1587に出した「伴天連追放令」というものがありますがとかく一向宗との比較をしています。

それ以上にキリスト教を厄介な宗教集団として捉えていたことがわかります。

 

「天正十五年六月十八日付覚」

 

「伴天連門徒之儀ハ一向宗よりも外ニ申合候由、被聞召候、一向宗其国郡ニ寺内をして給人へ年貢を不成並加賀一国門徒ニ成候而国主之富樫を追出、一向衆之坊主もとへ令知行、其上越前迄取候而、天下之さはりニ成候儀、無其隠候事」

 

その時点ではある程度の黙認部分があったかも知れません。

そこに「サン=フェリペ号事件」(1596)が起こったことによって強化版として同年に禁教令を出し、「日本二十六聖人殉教」というキリシタン迫害の実行動に繋がります。秀吉のくだした数ある異常性の一つでした。

 

あの増田長盛がサン=フェリペ号乗組員との交渉役だったといいますが、その事案がその後明治まで続くキリシタン弾圧の始まりといっていいかも知れません。

 

江戸幕府もその秀吉の差配に則って禁教令(1612)を発し、キリスト教徒から仏教徒への改宗を強制させます。

その「強制」の手法が拷問と死罪が伴いました。その発見の手段が「踏み絵」、そして信心の継続が「隠れキリシタン」の存在、双方中学校あたりの教科書頻出の単語でした。

 

その江戸期禁教令の過酷な弾圧によってキリシタンが信心を捨てること、捨てた者を「ころびキリシタン」「ころび伴天連」と呼びました。ちなみに伴天連とは指導者(宣教師)でポルトガル語の神父「パードレ padre」から。

 

その弾圧の背後にあったのが既成仏教のような気がして・・・

直接彼らに仇するものは権力ではありますが、どうにも「あの映画」の隠れた「敵役」となったのが私たち仏教徒のように感じてなりません。

実際にはキリシタン大名による過度な領内改宗の流れで寺社の排除があったといいますし、その宗旨浸潤に関しての畏れから仏教者や神社など何らかのお上に対するプッシュ(禁教令推進)はあったでしょうね。

 

昨晩は僕らの大好きな映画監督マーティン・スコセッシの映画「沈黙-サイレンス-」のメイキング仕立て(BS1スペシャル)の番組がありました。

遠藤周作が50年前に発表した江戸期初頭のキリシタン弾圧をテーマにした作品を映画化した「沈黙」でした。

 

内容は多様に一つのテーマから分岐して一言では語り得ませんが宗教的信心信仰というものが弱者たる個を無視した支配・強権者が排斥しようとしていく中でどう、その暴力によって動かされ変わっていくのかという点がポイントとなっています。

 

さて、「遠州忩劇」での2大悪役・敵役は「小野」と「小原」(またはこちら)。

二氏の繋がりは無かったにしろ共通点としては一言で今川家との関わりが強かったということです。

両氏とも字面としては「オ・・・小」を使用しています。かつてブログにてもその辺りのことを記していますよう、当時は「聞き書き、聞き記し」ですので「オノ」「オハラ」はしばしば「大野」「大原」と混同したりします。

意味的には大・小は相反しますが、ここではそれは無関係でたまたま「音」をあてたものですね。

歴史上姓氏の「小と大」の混同は有りうることと頭の隅に入れておかなくてはならないところでした。

 

「小野」は名目は井伊家にあって実は今川の意向を汲んだ井伊家参謀与力、そしてお目付的家系。中央で名を馳せた遣唐使でお馴染みの「小野」をご先祖に持つといいます。

そして「反今川」との流れには謀をもって井伊家に仇を為した親子でした。

 

以前ブログのどちらかで「井伊直虎」が大河ドラマに決まった時、その小野親子と今川氏真役は相当の憎まれ役となることは必定ですので、「役者も大変」と記したような・・・私が思うにはもし、その3人の配役を指名されたとしたら世間様に面目が立ちませんね。

一昔前でしたらお断りしなくては命が危ないくらいの憎らしさになりましょう。

 

それはよく父親や祖父が事あることに言っていましたが、それがただの田舎芝居であったとしても舞台のストーリー、劇中敵役に罵声が飛び交って、時には「テメェ何て酷え事をしやがる」とばかりに舞台に上がりこんでつかみかかることもあったといいます。

そのくらい日本人の心が純粋であってまた、その情景をイメージしながら、日本の「古き良き時代」を想ったものです。

「浪花節世界」にみんな生きていたのでした。

現代は「0と1」ですべてが別れるデジタル世界に変貌しています。

 

この「小野」に関しては直虎はじめ井伊家をドツボに嵌めるキーマンになりますのでこれから彼らを陥れんとする役者さんの演技が見ものです。

たくさんの登場人物は昨日大写しで記した周辺系図で確認しつつ、この「オノ親子+氏真」に注目してみてください。

 

画像は龍潭寺墓域、小野玄蕃の墓。小野玄蕃という人とその後の悪役設定については1/5日ブログで追記しました。

そして「沈黙」ポスター。

「小原の無慈悲」についてはまたの機会に。