真宗本廟(東本願寺)宮御殿の障壁画  夏不要論

全然関係ない病気(特に心疾患)で医者に行くと、「取りあえず歯医者に行け」と言われて帰された、などとよく耳にします。

また歯周病を治せば心臓病に肝炎、糖尿病も改善するなど全身疾患と口腔衛生が深く関連していることがわかってきているそうです。

 

要は口の中の炎症は「ばい菌だらけ」ということを言っているのですね。動脈硬化、慢性腎臓病、骨粗しょう症、誤嚥性肺炎なども歯周病との関わりが指摘されているほどです。妊婦さんも早めに歯の治療をしないと早産に繋がるというデータもあるようですから虫歯といってバカにするべからず。

現在、口腔内衛生(歯磨き)は万病に繋がるといっても過言ではないと認識されています。

 

歯のハナし・・となると御開祖のあのシャレた辞世の句を思い出します。

「秋はつる 落葉は冬ぞ いざさらば

           無量寿国の春ぞ なつかし」でした。

 

結果的に聖人はその歌を詠んでから30年近く存命したわけですが、当時親鸞さんは「歯が落ちた」という現実に、即ち「死」を意識したのでしょう。今では治療法も確立し歯が無くなろうが対応処置の方策等色々開発されて「どうってことない」といった感覚がありましたがやはり昔から歯は如実にその人の寿命とリンクするが故に大切であって寿命のバロメーターという考えが一般的だったように思います。そうでなかったら親鸞さんからあの歌は出てこなかったように思えてなりません。

 

その歌で気になることは・・・四季のうち「夏」のみが出てこないのですね。

自分の一生を四つの季節に喩えているのですが「夏=人生の最盛期」は「終わって」今は既に「晩秋」であり、生き物たち動植物も滅亡と更新のサイクルに入っていて、わが命もそれと同等の変化の中に生かされていることを詠っているのかと思います。その無常観に人生最盛期である「夏」の存在に意味は無いのでしょう。敢えて表現せずとも誰もがその存在を主体また主張しながら生きていますし。

 

よって「夏の表現、不要論」。

これは先日のバスツアーで皆さんをご案内した諸殿の一つ、宮御殿の障壁画、襖絵について私が勝手に思いついたことを記します。

東本願寺の諸殿拝観については、「どうしようか・・・」といつも悩むところです。というのは毎回参加されている方たちには「またか・・・」と思われてしまいますし、初めて参加される方には「是非とも・・・」と懇願されてしまいますので。

まあ20分程度フリータイムを設定すればイイだけの話ですが、今年は白書院でお斉(昼食)をいただきましたので「ことのついで」ということで裏の薄暗い廊下から宮御殿に廻りました。

 

ところが何度か行っている宮御殿も今回、廊下の向こうに開けた大寝殿方向にぞろぞろと進んでしまった皆さんを追っているうちに看板を見落としてしまって、その場所を失念し通り過ぎるという失態をしてしまいました。そもそも宮御殿の襖絵の案内は「プロ」に任せた方がいいので私は接待所にたまたま居たご担当のY氏をつかまえて「宮御殿だけ案内を」と依頼しました。

修学旅行生の予約で時間の押している中、有り難くも快く引き受けていただきました。

 

その案内の中でいつもの解説を耳にしているのですが、今回「そういえば・・・」と思ったことがあります。

 

宮御殿は元は御所の御殿で赤い畳の縁は女官の間を意味しているようです。

本山の宮御殿の概要を記せば

「宮御殿は1867(慶応三)年に旧大宮御所に建てられた御殿。

明治十三年に渉成園の大玄関とともに贈られたものでした。

一度解体され、部材のまま保管されていましたが明治三十四年の『御真影遷座三百年紀念法会』にあわせて、現在の御影堂北側に再建されたのです。その昔は御所にあった御殿であるため、室内はそれを彷彿とさせる瀟洒な大和絵で飾られています(非公開)」

 

★「子日遊図と大鷹狩図」について

宮御殿には宮中の年中行事の描かれた襖絵が施されており、

「子日遊図」は初子の日に野外へ行って若松を引き抜くという初春の年中行事です。

金砂子を装飾的に用い、登場人物である公家や稚児の衣装表現が巧みに且つ雅やかに描かれています。

「大鷹狩図」は大型の鷹を使って雉や鶴を狩る冬の大鷹狩の様子が描かれています。青金と赤金、それぞれの砂子を効果的に用いて、冬の空気感や陽射しを受けてまぶしく光る雪を上手に表現しています。

 

「四季行事絵図(作者不明)」の「春 子日遊図 ねのひあそび」、「秋 撰虫図(むしえらび)」、「冬 大鷹狩図」の 襖絵に囲まれた部屋があるのですが、「四季」とはいいながらなぜか「夏」が見えませんね。

夏が見えない説に色々挙げられることがありますが、私は最初から「描かれていない」ということに「一票」ですね。

 

①はお斉の会場「白書院」の上段。③④が宮御殿に入る引き戸。実際はもっと薄暗く感じます。

南側庭園の向こうに約5mの高さの土塁が設けてありますがこれは防火のため。本山火災のすべてが北側からの出火ということでそれに懲りて北側に池と土塁を設けています。

最後の画像2枚は案内用の画像を失敬。