「雑兵物語」は 泰平の世に出た教科書

雑兵物語の「槍担」(やりかつぎ)の段より。

「槍担」とは普通に我らが思う所謂最前列の槍組の人たちのことですが、その槍組の心得について彼らの小頭(こがしら 長柄源内左衛門)が語っています。

  ちなみにこの雑兵物語の各段の語り部の名は、作者の洒落です。槍のお話をしている長柄とは槍のことですね。

その他格段仕事役回りごと、適当に名をあてています。

 

 雑兵物語は戦国期が去って江戸期の天下泰平、戦は昔の語り草となった1600年も後半になった頃、高崎城主の松平信興が記した作と言われていますが実際のところ作者はわからないそうです。

 とにかくその内容は「ある侍」がなまくら時代に突入し久しく戦を忘れている(勿論自分を含めて)家中を啓蒙するため、わかり易く雑兵たちにイザという時用の教科書の如く記して提供したものでしょう。

その後写本が重ねられて一般社会に読まれるようになったといいます。

 

 さて、戦闘部隊で侍と雑兵ともに槍を手に持って戦うことになりますが、何が何でも最初に相手と槍を合わせるのは侍衆からと決まっていました。

槍担と呼ばれる雑兵どもの戦働きはその後からとなります。

そしてそちらに記されている槍組の戦い方の心得は

①槍は突くものとだけと思うな

②皆で気持ちを一つにして槍の穂先を揃え、拍子を合わせて敵の

 槍を上から叩く

③その時は突こうと思ってはならない。ただし1人2人の敵の

 場合はその限りでは無い。

④叩く時は敵の背中に差した旗を叩き落とすつもりで振り下ろす

⑤馬に乗った敵はまず先に馬の胴腹を突き、馬が撥ねるので敵が

 馬から落ちたところを突き殺す

⑥敵の部隊を崩したとしても一町(150m)以上深追いするな

⑦味方大将の旗や馬印を護るように一所に集まる

⑧常に槍の目釘には注意しておく

⑨槍の穂先が胴金で留めている場合はよく締めておく

⑩日頃腰骨をよく鍛え、遅れをとらぬよう

 

槍の穂先を長柄に差し込む方法は刀と同様に穂の柄茎の部分に予め目釘穴を開けて置き、茎に合わせて差し込めるよう加工した先端に差し込んでから目釘に合わせて長柄の上から目釘を嵌め込み、固定します。

目釘と言いながらまず木製です。

その他穂の部分の下部が被せ式の槍も有りますがその場合は長柄先端の加工は被せに合わせるよう加工するだけですので簡単です。

こちらも被せ部に目釘穴が空けてあります。

どちらにしろ目釘が甘いことほどの命取りは無いことですので戦時下では頻繁に確認しておくべき個所でもありました。

穂の部分がすっぽ抜ければただの棒切れですから。

 

 

画像提供:東京国立博物館 http://www.tnm.jp/