裏打ち依頼し自前額装 超難解小島蕉園の手紙 

前夜からの冬が舞い戻ったかと思えるような冷え込みも夜が明ければいいお天気で気温も春なみ。

この日は懸案の巻物の額をDIYしました。

そもそもボロの虫食い掛け軸や文書のうちコレというものは表具師に依頼し修復して新しく軸装しますが、横長のものはイケませんね。

縦型のオーソドックスな掛軸や屏風、襖の類はいつもの表具屋さんでの仕事ですが、その横長のものいわゆる「巻物」に関しては別の職人の仕事なのです。

 

以前依頼した際は他所のそのスジの人に別注でしたので、今回は「裏打ちだけ」ということでお願いしていました。

時間もかかるし諸経費も嵩みますからね。

 

ということで裏打ちが完成したそれをどうするかということですが、結局自分で額を作ることにしたのです。

額と言っても超出鱈目、透明のテーブルクロスを表面に材木を切り貼りしたヤッツケ仕事です。

 

だいたい横1m30㎝×縦30㎝の額など特注でも無いかも知れませんので金額どうこう以前の問題ですね。

ちなみに今ある材を使用しましたので材料費は1000円もかかりませんでした。

 

さて、その文書(上記画像)ですが、いたって読みにくく内容も難解です。

「蕉園渉筆」の場合は各項比較的短文であるということと不特定多数の目に触れる事を思料しての記述だったのか案外と分かり易いものがありますので、この句読点、間隔ナシの漢字の羅列のうえに私どもが見たこともないような蕉園の感動話ですからね。ピンとくるものが無いのです。

 

早速いつものように叔父にこの文書の解読を依頼しました。

すでにプロのレベルに近い叔父にしてもこの解読には3日ほどかかったようです。

 

まず冒頭の四行に「ワケわからん」状態になりますが、これはこの文書の蕉園の結論が記されているのです。

これは「なおなお書き」(尚々書)と呼ばれるもので普通に記せば「追伸」です。

何故に冒頭かといえば書面の都合上、今から記す文書の終いがわからない場合など、冒頭の数行分余白を空けて書き始めるというのが一つのならいだったようで、要は書ききれなくなった場合の締めの部分を予め開けておくというもの。

案の定紙面が足りなくなって冒頭に書き添えたのがそれで、それが「尚々~」であることを了解してもらうために列を下げています。

よって読み始めは五行目からですね。

 

原文

  得江戸信近一奇工以全竹

  象人物及禽獣草木之

  類供都人士之覧云附

  所刊行図乃就図戯詩之

 

往年江都叡岳傍假屋構

成観物場竹籠極工象百品

士如成群自各方云是京人所制

造京摂終覧遠上航江都人

気侠成風抗衝京人更出工今

年甲申開観場架起金龍山

寺中而用全竹揉且屈洪繊極

工壓竹籠都人競行見称奇

人耶鬼耶工出誰遠害真図

報家人盛盡観美五采施初聞

喧傳未能信今展此図甚不欺図

写而一麗不全縷候題書在紙邉

稚子捕鶏為第一第二孔雀垂

尾眠第三第四逐次閲不唯工手

寫真鮮美人弄猫童牧牛架

銀臺白玉楼牽牛花庭雉啄蟲

遊鹿欲鳴紅葉秋方盤貯水何所

挿萍蓬花媚供臥遊白猿衣錦

養誰家小盆連排幾種花一獅

俯舟一獅谷芙菊半開柴桑籬

千丈擘巌懸泉迸成乎

下天涯樊噲鴻門万夫力持

楯馳来勇形色英雄美髯関雲

長周倉瞋目立其側服飾佩具

紀装尽全竹何由用工極纔窺

一斑猫堪驚况見全豹在江城

工人思成此工天下何事不可成

人々相省無自棄非是不成不勵

 

精 航當作舫籬亦

  可作笆

 

蕉園彝

 

叔父は日本語ワープロ160万字をカバーするソフトを所有しているといいます。

それだけの漢字があれば大抵の文書を書写できるそうですが、この蕉園の手紙文中には3つも見たこともない字が使われているそうです。

赤字がそうですが、「起」は「走+尺」「走」は「走+殳」だったよう。「漢」に至っては表現できずです。

原文は分かり易い字に直していますが叔父の原文は確りと忠実に使用して記していました(文字化けするので画像撮影でした)。

それをどちらから持ってきたかといえば中国語のソフトだったそう。

 

こちらの蕉園の手紙は拙寺の蔵から出てきたもので、おそらく蕉園が拙寺九代祐厳に宛てた書面だと思いますが内容が奥深すぎて呆気にとられます。意味が分からないのです。

その蕉園の記述には、中国古典に登場する人物やら情景がそこそこに出てきてその教養の深さに触れることができますが。

 

しかしハッキリ言って個々の単語について知らなくては「何が何だかわからない状態」に陥ります。

叔父も今は「検索しちゃえば・・・」と言っていましたが検索しても引っかからないものもたくさんあるようです。

 

しかし文書の受け取り側としてもその内容が通じ合わなくては意味がありませんので、これを読んだと思われる9代目も相当の知者を思います。

どうしてここまで劣化・退化(私)してしまったのかこれまた恐ろしいことです。

 

だいたいの内容は

尚々書から・・・

 

     得江戸信近(えどのぶちかをえる)  一奇工(いちきこう-奇はす 

 ばらしい)

     以全竹(すべてたけをもって)象人物及禽獣草木之類(じんぶつ  

     およびきんじゅうそうもくのたぐいをかたちずくる)

     供都人士之覧(とじんしのらんにきょうす) 

 云附( ふしていわく)

     所刊行図(かんこうするところのず)乃就図戯詩之(すなわちず 

     につくこれぎし) 

          ※「士」知者 知識あるもまっとうな人

 

 

 

往年江都(おうねんこうと)叡岳傍(えいがくそば―寛永寺)假屋構成観物場(かりやかまえなるかんぶつじょう)

竹籠極工象百品(たけかごきわめてたくみにひゃくしなをかたちずくる)

士如成群自各方云(しむれなすごとくおのおのがたよりいう)

是京人所制造京摂(これきょうにんきょうせつでせいぞうさせ)

終覧遠上航(ついにとおくのぼりわたるをみる)

江都人気侠成風抗衝(こうとじんききょうなるふうあらがいつく)

京人更出工(きょうにんさらにたくみにいだす)

今年(文政七1824)甲申開観場(ことしきのえさるかんじょうをひらき)

架起金龍山寺中(きんりゅうざんじちゅうにかけおこす)

而(しこうして)用全竹揉且屈(すべてたけをもちいためかつまげ)

洪繊工壓竹籠(こうせんたくみにたけかごをへす)

都人競行見称(とじんきそいてみにいきほめる)

奇人耶鬼耶工出(きじんかおにかたくみにいだす)

誰遠害真図(だれかなんぞしんずにとおし)

報家人(かじんにほうず)

盛盡観美五采施(さかんにことごとくごさいをほどこすびをみる)

初聞喧傳(はじめてけんでんをきく)

未能信(いまだしんずるあたわず)

今展此図甚不欺(いまこのずをひらくはなはだあざむかず)

図写而一麗不全(ずしゃしていちれいまったからず)

縷候題書在紙邉(ほそすじにそうろうだいしょしへんにあり)

稚子捕鶏為第一(おさなごにわとりをとらえるをだいいちとして)

第二孔雀垂尾眠(だいにくじゃくおをたれねむる)

第三第四逐次閲(だいさんだいしちくじけみす)

不唯工手(ただならざるたくみなて)

寫真鮮美人弄猫(しゃしんあざやかにびじんねこをおてあそぶ)

童牧牛架起(どうぼくぎゅうかけおこす)

銀臺(ぎんだい)白玉楼(はくぎょくろう)

牽牛花庭(けんぎゅうかのにわ)雉啄蟲(きじがむしをついばむ)

遊鹿欲鳴紅葉秋(あそぶしかがなかんとほっすもみじのあき)

方盤貯水何所挿萍蓬(ほうばんちょすいどこへいほうをさす)

花媚供臥遊(はなみめよくがゆうにきょうする)

白猿衣錦養誰家(はくえんいきんだがいえをやしなう)

小盆連排幾種花(こぼんいくしゅのはなをつらなりてひらく)

一獅俯舟一獅谷芙(いちしふねにうつむきいっしふにきわまる)

菊半開柴桑籬(きくがなかばひらくさいそうのまがき)

千丈擘巌懸泉迸成乎(せんじょういわをつんざきけんせんほとばしるなるや)

銀漢下天涯(ぎんかんしたてんのはて)

樊噲鴻門万夫力持(はんかいこうもんばんぷちからもち)

楯馳来勇形色英雄美髯関雲長(たてははえきたるゆうけいしょくえいゆうびぜんかんうんちょう)

周倉瞋目立(しゅうそうめいかりたち)

其側服飾佩具紀装尽(そのかたわらふくしょくはいよそおいづくしをしるす)

全竹何由用工極(すべてたけなにによりてきわめてたくみにもちいん)

纔窺(わずかにうかがう)一斑猫堪驚(いちまだらねこおどろきにたえ)

况見全豹在江城(いわんやまったくこうじょうにあるひょうをみる)工人走思成(こうじんおもいなすにはしる)

此工天下何事不可成(このたくみてんかなにごとなすべからず)人々相省無自棄(ひとびとあいかえりみみずからすつることなし)

非是不成不勵精(せいれいせずんばなさざるはこれにあらず)

航當作舫籬亦可作笆(とうさくをわたりまがきをもやいまたかたけがきをつくるべし)

 

             蕉園彝(しょうえんつね)

 

江戸に竹細工で驚愕の美術品を作る者(江戸信近なる職人?)がいてそれに驚愕した話ですね。

波津の代官職時代に江戸に参ったときその感動を知らせようとしたのでしょうね。

彼が目の当たりにしたその作品たちときたら中国の故事にちなんだものから浮世絵師の題材、「紅葉と鹿」の如く古今和歌集にある「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき」を示唆するような日本文学からのものなどなど「人物及禽獣草木之類」

それにしてもこれらのことを知らなくては記せない内容です。

いったいその竹細工とは何をさしているのかもわかりませんし個々羅列したそれぞれについてわからないこともたくさん。

今後判明次第追記したいと思います。

 

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コメント: 2
  • #1

    小山昭治 (土曜日, 16 3月 2019 10:33)

    すいません。全部読む気がないです。
    よく漢字を打てましたね。ご立派。時間がかかったでしょうね。

  • #2

    今井一光 (土曜日, 16 3月 2019 21:34)

    ありがとうございます。
    途中私も嫌になりました。
    見にくくてすみません。