日出先照高山之寺 世界遺産高山寺  明恵上人

先日来、東京の鳥獣戯画展の混雑ぶりが報道されていましたが、あの「美術館行列と時間待ち」というのはくさくさしますね。

来訪者御一同、かなり気合いが入っていそうで仕方がないにしろ混雑した美術館ほど不快なものはありません。

それはイイものに触れることは実に楽しいことなのですが、館内に入ってからの通勤電車並み混雑にはまいります。

「割り込んだ」だの「肩が触れた」だの「進むのが遅い」だのゆったりとした拝観はもはや無理ですね。雑踏の感。

人それぞれ拝観の仕方が違いますし。

 

私の方はといえば、その爆発的ともいえるトーキョーの人気を尻目に京都の高山寺へ向かいました(場所はここ)。

こちらのお寺は京都でもどちらかといえば北のはずれ。

近隣の神護寺とセットにして秋の紅葉シーズンが人気となっていますので、初夏の侯は殆どその境内の空気は独占状態。世界遺産に指定されている境内を一人占めです。

 

こちらのお寺の所蔵品筆頭は勿論「鳥獣戯画」ですが、他の図画等も外の美術館に預けられていて、各美術館を出張しながら「出稼ぎ」していますので、このお寺に訪れてもそのホンモノの姿を拝む事はできません。

 

しかし開基の明恵上人住房であったといわれる国宝の石水院とその緑に囲まれた空間を楽しむことが出来ます。またそちらの隅っこに置かれたガラスケースにはその「代品」が展示されています。

私は「鳥獣戯画」のホンモノはどこかの薄暗いやはり混雑した美術館で拝見したことがありますので、こちらで十分です。

まったくそのものの違いが判りませんし、そもそもこちらはそのお寺の「雰囲気」「情趣」を楽しむ場所ですからね。

 

表記「日出先照高山の寺」とは「朝日はまず最初に高き山を照らす」という華厳経の一節で、そちらからその名を銘々したそうですが、開山の明恵さんは仏教「戒律」に生きた人。

当時において爆発的に流行った法然さんの専修念仏への危機感を抱いていました。

戒律と称名念仏は「行」という観点から水と油の関係です。

奈良時代に興隆した南都六宗の一学派である明恵さんの華厳宗は鎌倉期に入ってもはや社会の底辺に居る庶民へ広がった仏教救済、浄土教的易行道に対する素地は消失していましたのでその流れを喰いとめることは困難を極めたでしょう。

 

話は飛びますが、内閣府?のすすめるビジョンでとても抽象的で判りにくい「頑張った人が報われる社会」という言葉がありました。「うまいことやったらアメをあげる」みたいで子供だましのフレーズの如くですが、これはたとえば「成功した人」こそが「修行した人」であってその人たちのみが「救われる」ということでしょう。競争と格差を推奨しているが如くで・・・

 

人のスケールというものはそれぞれ違うものですから、社会に出て「頑張ったとしても成功出来ない人」が当然に出てくるわけで、その人たちをも「頑張れない、成就できない人」であるのだから「報われないのは当然」と言っているのも同然です。

 

問題なのは諸処の理由で「修行ができない=頑張れない」人も「報われないのは当然」=「見捨てられるべき」と断じられているようで・・・

その点が「行」とは何かの論点なのですね。

勿論私たち真宗の「行」は南無阿弥陀仏の六字を称えることでありますが、それよりさらに重きをなすことは「信」なのです。

簡単に記せば肉体的刺激や苦痛への忍耐にウェイトを置かず、「心」に問いかけるものですね。そしてまた人間の本質、煩悩の有無にこだわらないということでしょうか。

 

成功した人も失敗した人もそれらに向かう力の無かった人もすべての人が救われなくてはならず、誰一人見捨てられるべきではないのですが・・・。

コレが国のあるべきスタンス(福祉社会)であって、すべての国民を平等に差別なく救う、譬えることこれこそが易行道、専修念仏なのです。

高度な国家の在り方こそ、阿弥陀世界の思想に近くなるべきなのです。戒律と行を政(まつりごと)に譬えてしまいました・・・

 

③画像は国宝の明恵さんの軸、コピペ。石水院にも掛かっていました。

木の上に上って修行中の図ですが、私には結構親しみやすい明恵さんの図です。私も木に上り「行」を「修」めますが、座禅はしません。そろそろ境内の覆いかぶさった箇所を切らなくては・・・。

 

明恵さんはじめ墓域に並ぶ苔むした古色深い石塔に感じ入ります。仏足石の存在なども明恵さんの一途な仏教原理=釈迦崇拝と戒律強調の気持ちが伝わってきます。

国宝石水院の他、主だった建築物は開山堂と金堂程度で古来の伽藍林立の姿はありません。また、石垣が何とも城跡の曲輪跡の様。

 

最後の画像は私たちの高校教科書「源頼朝像」ではお馴染みの神護寺の入口。今は「アレは頼朝ではない」説が有力です。

駐車場がありませんので民間駐車場へ。