「箱根七湯の枝折」の一つ芦之湯からの思い出

小田原在住で今の様に日帰り温泉場がそうは繁盛していない頃の私など、箱根は準地元であってそうそうこちらのお湯に浸かろうなどという酔狂は持ち合わせていませんでしたが、ここ「芦之湯」に関しては大学1年のサークルの合宿で使用した際の思い出があったり、それよりも小田原側の小涌園―たしか当時「湯~とぴあ」と呼んでいました―のGW期間のみのアルバイト(湯船の清掃と監視)が印象に残ります。

 

そちらでの仕事は役得で終いには「もう風呂はごめんだ」というくらいにのぼせあがりました。

敢えて付け加えますがこれは水着姿の若い女の子を目の前にしてのことではありません・・・。ちなみに沖縄での仕事も同様のサービス業の従事でしたし。

 

つい余談を記します。私が沖縄へ「出奔」する前まではブログでも記していますが東急ハンズにお世話になっていました。沖縄へ行きたいと思うようになったきっかけは販売促進課の「手作り教室」にて私の企画した「船舶免許学科講習会会場」に休みを取って自ら参加、その後アウトドアフロアーの担当に頼み込んで当時逆輸入でのみしか手に入らなかったジェットスキー(カワサキ)を購入してハマリこみ、その「遊び」を仕事に出来る場所を求めて沖縄に渡ったのでした。


「ジェットスキー」という代物は「カワサキ」の商号で、あの頃は日本には販売店というものが無く輸出されたそれを再度輸入するというバカバカしいと思えるくらい贅沢な独身ならではの趣味でした。

 

 当時としてはお寺の仕事を考える余地など微塵も無く、「海で遊ぶ仕事」しか考えられないような、これも今思えば酷い夢ばかりを追いかけていましたね。

いつしかそれら「水」にかかわる商売が「現実的で無い」ということが徐々にわかって、まぁやっと最近「落ち着いて」きた、というところでしょうか。

 

大学を卒業して入社した会社はたったの10か月で辞めてしまいました。

無茶苦茶というか有り得ないような会社で既に倒産して今はありませんが小売業で全国にフランチャイズ店舗をたくさん持っていました。一昔前まではそんな怪しい企業はまたぞろありましたね。

100人以上いた新入社員のうち私は幸運にも全国数ある小売店舗への配属では無く東京本社(営業)に残ることができました。同期では確か九州の店舗で自殺者が出たくらいでしたので地方へ行った人たちはさぞ辛かったでしょう。

 

その会社に対して「無茶苦茶」という表現を会社を辞めた人間が使うということにあまり信憑性を感じませんが、あの会社は殆ど「新興宗教」に近いモノがありましたね。

 

休日返上の名目自主参加の社内研修は殆ど内実「強制」の軍隊式。休日出勤手当も残業代もボーナスも無し、今でいえば超ブラックな企業でした。

当然に自然的に社会から退場させられることになったわけですが私も早々に見切りをつけて次のハンズに入社したわけでした。

しかし、ここで叩き込まれた接客ノウハウや、見知らぬ店舗への飛び込み営業の場数、そして短期ながら受けた各種苦痛は案外今の私にとってまんざらマイナスでは無かったと思っています。

 

入社式に人事部長に言って私を摘まみださせた(理由は私に非あり、つい居眠り―話が面白すぎる―しました)あの社長さんがよく言っていた言葉は今でも忘れることはできません。

「あなたがたに中内さんの爪の垢を飲ませたい」です。

何かというと「中内、中内」、おかげで知らないうちにその名は憎しみの如くに変わってしまいました。

 

そうです、中内とは「ダイエーの中内さん」(毎度の社長や統括部長の口癖)のことですね。当時「神」の如く崇められた人ですが当時の「ボク等」にとってその人には「何のかかわりも無い胡散臭いオッサン」というイメージしかありませんでした。

敢えて言えば「時流に乗ってうまいこといった人の成功譚・苦労話・自慢話の類」程度であると思っていました。

 

実際その「神様」らしき人のやり方で「うまいこと」やった経営者もいることはいますが、まず同じことをやって成功する人は少なかったでしょう。

事実私が10か月ながらお世話になった会社はすでに「退場」し、その店はもはや影も形もありません。その皆が崇めた「ダイエー」そのものは昨今、赤字垂れ流しの企業に成り下がって顧客も寄りつかなくなって、ついには昨日その「のれん」も消滅、「退場」が決まったとのニュース。

 

あの時、新卒の若造を前に罵るように「中内さんの爪の垢」を論じていていたエライ方々のお顔を久し振りに思い出し、会社や人間というものの浮沈を感慨深く思った次第です。小涌園で風呂の垢は機械のフィルターが濾してくれましたが、神格化した放漫経営の垢は積もるばかりだったでしょう。

 あのとき言われるままに「爪の垢」とやらを飲まずに拒絶したのも良かったことと思います。

 

さて昨日記した「箱根七湯の枝折」は

「生死流転の世の中 夢かとおもへばまた目の当たり」はまざまざの思いです。

 

画像は箱根町所蔵 重要文化財 「芦之湯の惣湯」図です。

右から「底なし湯」(ぬるめ)→「中の湯」(少々熱め)→「小風呂(貸切)」→「大風呂」。

芦之湯は「単純イオウ泉(H2S型) Ca-硫酸塩泉」というそうです。