名物狩り 織田信長   香の十徳

「茶道」という言葉に対し、「香道」というものがあります。

くゆらした香の香りを嗅ぐことを「聞く」、と表現しますので「聞香」とも言います。

聞香札(もんこうふだ)により聞き分けた香に投票し鑑識人の裁定を仰いで勝敗をつけるという趣向から「組香」という高尚なお遊びまで多様です。

聞香札は各所支配者の館・城址等で出土しているそうですから、やはり茶道と同様に香道も古くから伝わる日本の文化の一つですね。

 

 東大寺正倉院に伝わる宝物「蘭奢待」(らんじゃたい)はその大きさから稀有な珍重品といわれ、世界中何処を探してもこれ以上の品は出てこないくらいの代物です。

(長さ156cm、11.6kg )

そしてまた、聖武天皇の関わりは推測できるものの伝承が無くここに納められた経緯は謎です。

 

 正倉院に入り込んで蘭奢待を切り取った人として

足利義満 足利義政 土岐頼武 織田信長 明治天皇の名がこれまで挙がっています。(こっそり切り取られた跡も無数にあるとのこと)

小和田哲男先生によると「興味本位で切り取った義政に対し、信長は義政への対抗心から切り取って、子飼いの家臣に配った」と、やはりこれも「宝物の政治利用」に触れているとのことでした。

信長は茶道具の「名物狩り」で有名ですが正倉院宝物を狙うとはそのことがこれまでの「権力者の流儀」のようなものではあったとは窺われるものの 傍若無人―「傍(かたわら)に 人無きがごとし」―な男ですね。

 

「蘭奢待」は伽羅(きゃら)とか沈香(じんこう)と呼ばれる香木の代表で「黄熟香(おうじゅくこう」と言う「沈丁花科の木」が特殊な土壌の中で樹脂を分泌して発酵し、それが重たく水に沈むほどに凝固するため沈水香木(じんすいこうぼく)と云われました。略して「沈香」です。

特にベトナム産のものが香の質が高く高価で希少価値があるようです。

 

産地や色々な条件によって品質が変わるのでいわゆるピンキリ、映画・ドラマの中の裏社会で流通する違法薬物以上に高価なものもありグラム10000円などはザラ、イイものになれば1パケ数万円は当たり前の世界です。

勿論中毒症状は出ませんが、拙寺で使用している普及品であってもその香はクセになります。坊さんとしてもイイお香に対する憧れのようなものがあり「蘭奢待」の香りを聞くことは無理とは承知していても1度は体感してみたいものですね。

義政、信長の気持ちがわかります。(興味本位のみですが)

 

 葬祭場等に用意されている抹香(黒や赤い不明な色をしている混ぜ物)には沈香は入っていませんね。

某御寺院様があの焚かれた煙にむせて、「おがくず」と呼んだのは爆笑でした。

特に火葬場の抹香は酷いものがあります。(まるで唐辛子・・・)衣にあの香が移るのは嫌な感じです。

 

 本当の香には心を落ち着ける効果、今でいうリラクゼーションがあるはずなのですがね。

「何でもいいから煙を焚きあげろ・・・」という感じです。

やはり「おがくず」の表現は当たっていますね。予算の問題があるかと思いますし、「それほど気にしない」という方も多そうです。

私も「大してわからない知ったかぶり」の一人ですがホンモノとの比較すらできずにいるのですね。

 

 私の車は禁煙車ですのでかつては灰皿には灰を敷いて線香ですが比較的イイものをくゆらして楽しんでいました。(車検の際、綺麗に掃除されて帰ってきたりで、また最近はそんな心の余裕が無くなってきましたね)

その時よく思いましたがこれが歴としたお香であってもあの香りが判らない警察官の職質や検問に当たったとして、またビニール袋内の物質を持ち物検査で「発見」したら、しょっぴかれて一晩くらいは帰れなくなりそうだと苦笑いしていたものです。

そういう時は何を言っても信用されませんしね。とにかく私自身家族、友人から常に「怪しい」と呼ばれていることは承知していますので。(また違法薬物の吸引者も当初の言い訳が「お香です」です)

 

 拙寺では法要時焼香用の香は一応、沈香を用意しています。

「タニ」沈香で目が出るほどの高価なものではありませんが・・・

「伽羅」は最高品位でベトナム産。「シャム」がタイ産。「タニ」がインドネシア。

画像の「真南蛮」(まなばん)はインド南西のマラバル海岸産です。

「伽羅」の線香は伽羅の粉末の練物ですが線香としては高価です。

画像の木片をスライスしたような木端が「白檀」という香木です。

白檀は樹脂ではなく、内容の精油分が香を放ちます。

そして桶に入れて水に沈む沈香樹脂の図です。

小さな四角い透明状の「銀葉」は直火の強燃焼を避けるための受け台で、こちらの上に沈香の小片を載せてたきます。

ドロとは地中発見の沈香を云うそうで品質の良さを表するものと称するそうです。(実際は泥中に有る無しは質に関係ないとのこと)

しかし全てにおいて贋物の加工物が出回っていてこの世界も一筋縄ではいきません。おがくずと云われる所以です。(低品質の木片を削って香料を染み込ませた人工沈香)

 

香の十徳

  1. 感格鬼神  感覚が鬼や神のように研ぎ澄まされる
  2. 清浄心身  心身を清浄にする
  3. 能除汚穢  (けがれ)をとり除く
  4. 能覚睡眠  よく睡眠を覚ます
  5. 静中成友  静中に友と成る
  6. 塵裏偸間  忙しいときも和ませる
  7. 多而不厭   多くあっても邪魔にならない
  8. 寡而為足  少なくても十分香りを放つ
  9. 久蔵不朽   長い間保存しても朽ちない
  10. 常用無障   常用しても無害

           一休さんが伝えたといわれています。